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2008年4月18日 (金)

敷金トラブルの判例

「契約を解除する際、敷金よりハウスクリーニング代を清算したのち返却する」との契約の有効性について検討して来ましたが、そろそろ最終段階です。

「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」について、ガイドラインに示されている考え方よりも契約が優先する、ガイドラインをタテに契約上の義務を怠ると債務不履行責任を問われることがあります、と書きましたが、そうでもない場合があります。
というのは、このガイドラインは実際に起こったトラブルの裁判例などをもとに作成されているからです。争った結果「裁判所はこういう判断をしました」というのが判例ですから、話し合いがつかず裁判に決着を委ねた場合、ガイドラインと同じ趣旨の結果が出る事があり得るのです。

では、裁判所は原状回復についてどのような判断をしているのでしょうか。
個別的に事情が異なりますので、一貫した見解は難しいところですが、趣旨としては以下のようになると思います。

1、通常の建物の賃貸借において、賃借人が負担する「原状回復」の合意とは、賃借人の故意・過失による建物の毀損や通常の使用を超える使用方法による損耗等について、その回復を約定したものであって、賃借人の居住・使用によって通常生ずる損耗についてまで、それがなかった状態に回復することを求めるものではない。
2、修繕義務に関する民法の原則(貸主負担)は任意規定であるから、これと異なる当事者間の合意も、借地借家法の趣旨等に照らして賃借人に不利益な内容でない限り許される。
3、室内リフォームのような大規模な修繕費用を何の規定もなく賃借人の負担とする合意は無効と言わざるを得ない。
4、壁・付属部品等の汚損・破損の修理、クリーニング、取りかえについては、1と同趣旨の原状回復の定めにすぎない。
この判例は平成14年9月27日の東京簡裁のものです。

しかし、平成12年12月18日の東京地裁判決では「消費者保護の観点も重要であるが、私法上、私的自治の原則が重要な私法原理であって自己の意思に基づいて契約を締結した以上は、その責任において、契約上の法律関係に拘束されるのが大前提である」との判例もあります。

もう一つ、平成17年12月16日の最高裁の判例
「賃貸借契約においては、物件の損耗の発生は本質上当然に予定されているものあるので、通常損耗についての原状回復義務を賃借人に負わせる旨の特約は、賃借人が費用負担をすべき通常損耗の範囲が賃貸借契約書に明記されているか、賃貸人が口頭で説明し賃借人が明確に認識して合意の内容としたと認められるなど、明確に合意されている事が必要である」

まとめると、通常の使用によって生ずる損耗についてまで、賃借人負担とする特約が認められるためには、
1、特約の必要性とその合理的な理由があること(たとえばペットを飼育した場合は退去時に消毒をするという特約等)
2、賃借人がその不利な義務を負う事について認識していること(本来負わなくてもいい負担を、賃借人負担とすることを賃借人が認識していること)
3、賃借人がその特約による義務負担の意思表示をしていること(特約が記載された契約書や重要事項説明書への賃借人の署名など)

上記判例に当て嵌めると、今回の相談者の場合、「契約を解除する際、敷金よりハウスクリーニング代を清算したのち返却する」との契約が、本来の原状回復義務を超える部分についてまでも定めたものと言えるかが問題となると考えました。

私としては、この特約を有効と考える場合は、契約締結時の相手方の「引越しの時は忙しいだろうから、こちらでやっておきます~」などの発言から、この特約は「賃借人が通常の清掃を行えなかった時に」ハウスクリーニングをします、という意味であろうと判断しました。ですので、部屋の隅々まで通常の清掃を自分で行った賃借人には、専門業者によるハウスクリーニング代を負担する義務はないと。

そして、この特約の有効性については、特約の必要性も合理的な理由もないこと、賃借人には通常を超える不利益についての認識がなかったこと、さらにそれについての口頭での説明がなかったことから、特約については合意に達していないと考えました。契約が成立するには昨日書いた4つの要件を満たすことも必要ですが、お互いの合意が成立していないとどうしようもないんですよね。

で、結果どうなったかと言えば・・・。

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コメント

なるほど、そこで終わらす~!!
でも勉強になります。それでこちらの意思表示をどう持っていったか、その結果どうなったか気になりますねぇ。

投稿: クレヨン | 2008年4月19日 (土) 11時24分

クレヨンさん
結果だけ言っちゃうと、敷金は全額返ってきました(^^)
しかし・・・なんですよ。

投稿: おさる | 2008年4月19日 (土) 12時31分

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